地面に何かが落ちていた。

 ──写真だ。


 電信柱の裏に、残されたそれを拾う。

 やんわりと折り目が付いている。嬉しそうに並ぶ、幼い兄妹が写った写真。ひとりが僕で、隣にいるのが先程の少女。

 僕は写真を裏返す。

 右下角に小さく添え書きを見付けた。これは、父の字だ。


 ──ホマレ、5才。アヤ、3才……。


「アヤ、3才……」


 ──父の声がする。

「2枚、焼いてきたぞ。ほうら」

 家の境内で首に手拭いをかけた父がしゃがみ、僕とアヤに写真を渡す。

 僕は半ズボンのポケットに入れ、幼いアヤは、グニャリと手の中で握ってしまった。

「あーあ。アヤ、貸してみ」

 アヤの手のひらの上でシワを伸ばし、ポケットに入れてやる僕の姿。

「ありがとう。おにいちゃん」

 クリクリまなこが、僕を見上げる。


 ──ありがとう。おにいちゃん。


「ありがとう、おにいちゃん……」

 僕は呟く。

 何度も何度も、念仏のように唱える。

「ありがとう、おにいちゃん。ホマレとアヤ……、お兄ちゃん。そして、妹」

 簡単な答えなのに、言葉にするのをためらった。

 こんなところに、綾が写っている。

 僕も、同じ写真を持っている筈だった。

 おもむろにズボンのポケットをまさぐる。

 案の定、写真はない。


 ──なんてことだ。


 肌身離さず持ち歩いていた大切な写真を、僕は家に置き忘れてしまったらしい。

「なんてことだ」

 もう一度、僕は呟いた。