ふと、電信柱の裏から、少女が僕を見ていた。

 見覚えのある少女。

「ねえ、おにいちゃん」

 僕は呼び止められる。

「ねえ、おにいちゃん、ってば」

 溜め息混じりに、顔を寄せる。

 長距離バスに乗った時、ヘッドレストに付いていた少女だ。

 いや、違う。見覚えがあるのは、その前からだ。

「君は誰だい?」

「あたし? わからないの?」

 隠れるのをやめ、ひょっこりと出てきた。

 やはり、あの時と同じだ。青いフリルの付いた服を着て、両えくぼが可愛らしい。

「僕をつけているの? もしそうなら、付きまとわないでくれないか」

 僕がそう言うと、また、電信柱に隠れる。

「おにいちゃん……あそぼうよ」

 僕は耳を塞ぐ。

 なぜ、出てくる。
 君は誰なんだ?

 きっと僕にも原因があり、キッカケがあったはず。

 僕の場合は何だ?

 何を閉ざしてしまったのだろうか。

 お兄ちゃん?

 ……あそぼうよ。

 遊ぼう、よ……。


 やはり、何かがある。

「なあ、君……」

 そう声をかけた時だった。少女はもう、そこにはいなかった。