それからまもなくして、僕は挨拶をし、先生の家を出た。

 どんよりとした空気に包まれて、僕は俯いた。


 歩きながら、人の幸せとは一体なんだろう……、そんな事を考えた。


 ──姉を置いては行けない。


 それは、妹も結婚を諦めてしまうということだろうか。

 何かが狂い、周りを不幸にしてしまっている。

 僕なら、嫌だ。
 そんなこと、絶対にしたくはない。

「こんな時こそ、ナンか言えよ」

 旧家の壁の真ん中に貼られた政党のポスターに足を止め、気を吐いた。

 党首と思われるふくよかな男が、青空を背景に力強く拳を作っている。

 僕は政治のことは分からない。

 大人たちの世界の一部だといえばそれまでだが、この人たちが権力を欲しているということぐらいは、分かる。

 世の中を変える、変えられる……、そんな気概があるのなら、今すぐその拳の意味を教えて貰いたかった。

「人を救うため」

 僕ならシンプルに、そう答える。

 国のため、と大きくまとめてしまうのは、大人のやり口なんだろう。

 しかし今、頭の中で抱えている問題は、政治ではどうにもならない。

 早苗先生が幸恵さんを不幸にしている。誰かが誰かを不幸にしている。

 やり場のない憤りが、僕を襲う。