インターフォンのボタンに人指し指を添える。カメラはついてはいない。ゆっくりと力を入れて、指先が奥で支えるまで、押し込む。

 プチっと電気が導通する音だけが聞こえた。
 家の中ではちゃんと鳴っているのかもしれないが、重い門の外側にいる僕には、全く状況が把握できない。


「はい」


 心細くなってきた頃に、若い女性の声が返ってきた。もう少し遅れたのなら、再び、ボタンを押すところだった。


「あのー、僕は上井誉といいます。以前、教育実習生として赴任された小岩井早苗先生のクラスの生徒で……」

 マイクがどこにあるか今いち分からなかったが、顔を近付けて話す。

 すると、バチン、という大きな金属音がした。その音に体が突瑳に反応し、硬直する。


「どうぞ」


 最後まで言わないうちに、開錠され、重い門が金庫のようにゆっくりと内側に開いた。

 僕は足を踏み入れる。
 圧倒されるような塀と植木が僕を出迎えた。塀の壁には家紋のようなものがあしらわれ、植木は一本一本よく手入れされた松だった。植木のことはよく分からないが、形は違ってはいるものの、それぞれに風格があった。

 塀と植木の間の、長い長い赤み掛った白い砂利道を歩き、玄関まで辿り着く。

 引き戸があった。擦りガラスで中が見えない。僕は窪みに手をかける。

 ガラガラと開いた玄関先には、見覚えのある早苗先生が正座し、顔をあげて、物珍しそうに僕の方を見ていた。