執事であるゾルターンに締め上げられているダニエル。それを横目で見つつ、マイヤはため息をついた。
「……お父様の迂闊さだけはどうにもなりませんわね」
「旦那様ですからね」
 レカもさらりと毒を吐く。レカ曰く、「求婚の言葉をもっと考えれば、違ったのに」ということらしいが。マイヤとしては、どんなに愛を紡ごうが、リーディアには伝わらなかったのではないかと思ってしまう。
 どう贔屓目に見ても、「戦勝国へ貢物にされ、病気を移された可愛そうな自分」に酔っていたのではないかと思えるからだ。

 病気のために薬と医師を用意したのはアベスカ男爵領のダニエルであって、グラーマル王国でもローゼンダール帝国でもない。それをきれいさっぱり忘れている。それに、侍女たちにも治療を施し、ダニエルの持てる範囲ではあったものの、しっかりと贅沢をさせたはずだ。
 領内にいる帝国嫌いは、このリーディアの我侭が原因ともいえた。
 それでいても、リーディアが再度王都に戻ってからもこの領内に残った二人の侍女――一人は現侍女頭のレカ、もう一人は既に他界している――に対して、忌避感はない。
 それだけが救いだ。

「うわぁぁぁん。だって、可愛いマイヤまで帝国に行ったら、私の支えがっ!」
「旦那様、あなたにはこの領内を治めるという気概は!」
「あるよ! だけどね、領民以外にも支えが欲しいんだよ! 領民守るだけなら独立しちゃった方が早いし」
 あ、言っちゃいかんことをまた言いおった。茶を飲みつつ、マイヤはため息をついた。
「どうしてあなたはっ! 帝国からの客人がいる時に、そういう要らんことを!!」
 こうなったら、しばらくゾルターンの説教が続く。

 仕方ない。ダニエルはゾルターンに任せて、ヴァルッテリの望む、「アベスカ男爵領」の見学にでも行くか。
 立ち上がったマイヤはベレッカとガイアに指示を出した。