「なぁ。ここで寝ていっていいか?」

 撫でる手が止まって動揺が伺えた。

 本当はまだまだ話さなきゃいけないことがたくさんある。
 でも……少し疲れた。

 何より朱莉に触れたい。

「何もしない。誓うよ。
 キスだけ許してくれれば。」

 何もしないなんて無理なことは火を見るよりも明らかだった。
 獣の部分が色濃く出ているせいで理性を保つことが難しいと知った。

 それでも………。

「本当に?キスだけですか?」

「あぁ。キスだけ。
 いいならこっちに来て。」

 また甘い声が出て、朱莉の手を握る。

「今ですか?
 だってまだ眠るには早い時間で……。」

「いいだろ?
 お前、疲れてるみたいだし。」

 俺が疲れたとは言いたくなくて、適当なことを言う。

 それに………今すぐに触れたい。

 おずおずとこちらに来た朱莉を抱きしめて膝に乗せた。

「ほら。キスしよ。」

 催促すると目を閉じた朱莉に胸が軋んだ。
 痛みを増して軋む心臓が壊れても朱莉とキスがしたかった。

 そっと触れるだけのキスをして、それから少しだけ舐めてみる。
 朱莉の味がして、それは甘く痺れる媚薬のように理性を侵食していく。

「朱莉おいしい。」

 呟いた言葉は常軌を逸していて、正常な判断からはかけ離れていた。

 何度も重ね合わせて絡め取った熱に浮かされて、ますます理性が保てなくなっていく。

 まだ足りないキスから唇を離すと首すじにキスをした。

 まずい。何もしないが嘘になりそうだ。

 息遣いが荒くなる朱莉の体からいい匂いがして、それがまた健吾を暴走させていく。

 ダメだ。ダメだダメだダメだ。

 乱暴に朱莉を膝から下ろして「もう寝よう」と声をかけた。
 勝手に速くなる鼓動を見ないように朱莉の手を取った。

 すぐ近くにあるベッドの奥に朱莉を追いやると隣に寝転がる。
 そのまま抱きしめる形で腕を回した。

「健吾さん。
 恥ずかしくて眠れそうにないです。」

 か細い声に本当に寝させないようにしてやろうかと言いたくなる。
 キスをして、肌を重ねて、触れて、滅茶苦茶にして………。

 朱莉に気づかれないように指を噛む。
 強く噛み過ぎて血の味が口に広がった。

 お陰で理性を保ったまま話せそうだ。
 本心は隠したまま別の本心を口にする。

「このまま眠りたい。
 腕の中にぬくもりを感じて寝ることが夢だったんだ。」

「寝たらハリネズミに戻るんじゃ?」

「今はどうだろう。
 ハリネズミだったら痛いかもしれないな。
 だからキスしたまま寝よう。」

 馬鹿みたいな提案。
 それを本気でしたいと思っているのだから俺はただの馬鹿なんだと思う。

 返事を言う隙を与えないように背を向けていた朱莉をこちらに向かせた。
 顔を近づけて、唇をそっと触れさせる。

 優しく触れた方が柔らかさを感じて、余計に激しく重ねたくなる衝動が押し掛ける。

「ふふっ。これこそ眠れませんね。」

 動かした唇がくすぐったくて、余計なことを考えないように目を閉じた。
 腕の中のぬくもりを離さないように、強く抱きしめて。