「こんなに食べれません。」

 サンドイッチやおにぎり、グラタンなど、渡した半分以上が返された。

「なんだ。遠慮するな。
 それっぽっちじゃ大きくなれないぞ。」

「健吾さんはそんなに食べるんですか?」

 驚きの声を上げる朱莉が『健吾』と呼べるようになっていて安心する。

「お前は……どのぐらい聞いたんだ。
 俺やオヤジみたいな人外のこと。」

 前の時は俺よりも知っていることさえあった。
 しかし全ては知らないはずだ。

「えーっと。
 爺やさんはなんの動物なのかは聞いてません。」

 ハハッ。まずはそれが気になるのかよ。
 ま、こいつらしいか。

「爺はフクロウだ。」

「フクロウ!
 ハリネズミの天敵じゃないですか!」

 天敵……。
 確かにハリネズミなんて小さくて弱い。

 動物にはライオンも熊も……それに犬や猫でさえ動物としては敵わない。

「笑っちまうよな。
 ハリネズミみたいな弱くて可愛いって言われるだけの奴が人外の……言わばトップなんて。」

 朱莉は何も言わない。
 アパートの外で走る自転車のベルの音や原付や車のエンジン音。
 様々な音が耳に入ってくる。

 研ぎ澄まされた耳。
 朱莉と出会って人の姿に長く居られるようにはなったが、その分、人の時に獣の部分も色濃くなっていた。

「情けないよな。
 俺、人外の中でも半端者なんだ。」

「そんなこと!……そんなこと言わないでください。
 私、あの会社はすごくかっこいい人や綺麗な人がたくさんいると思います。
 でもその中でも健吾さんが一番だと……。
 それにその髪の色も綺麗です。」

「ありがとな。
 お前の真っ直ぐさに救われる。」

「そんなこと………。
 あの、針じゃない髪も触ってみてもいいですか?」

「あぁ。構わない。」

 下げた頭を朱莉に向けると小さな手が柔らかい髪を触る。
 やっぱりくすぐったい。