「そういえば健吾さんのハリネズミ耳を見たことないです。」

 いちいち気になるところが変わってるよな。
 微笑みを浮かべて説明した。

「あぁ。俺はどちらかと言えば人の姿をするのが得意な方だからな。
 訓練しないと本人は人の姿のつもりでも耳が変わってしまったり、尻尾が出たりする奴もいる。
 俺も髪だけを針みたいに固くすることはできるぞ。」

 意識を髪に集中させて固くさせた頭を朱莉の方へ差し出した。
 触るわけないかと思っていた髪が触られて、そっと触る手がくすぐったい。

 顔を見ないで済む状況に本音をこぼした。

「悪かった。
 俺も色んなことに頭が追いついていっていないし、分からないことが多い。
 だから……悪かった…ひどいことして。」

 沈黙が流れた後に朱莉が口を開いた。

「真実の愛ってなんでしょう。
 健吾さんは……私のことどう思ってますか?」

 聞かれたくないことだった。
 黙っているのは卑怯だと思うのに声が無くなってしまったみたいに出てこない。

「いいんです。
 好かれている自信はありませんから。」

 らしくない言葉。

 こいつにそんなことを言わせて俺は何をやってんだ。

 正直に言うしかないんだと腹をくくった。

「悪い。正直分からないんだ。
 でもたぶん獣の部分がお前を求めてる。
 だから嫌なら……待っててくれないか。」

 今すぐにでも触れて腕の中に収めて、キスしたいし、それ以上も………。
 だけどたぶんこいつは…………。

 狐が言っていた『いい匂い』が今なら分かる。

「でもキスしないと健吾さんは人の姿になれないって。
 困りませんか?」

「あぁ困るな。」

「だったら!」

 だったらってなんだよ。

「やめろよ。それ以上言うな。」

 こいつはやっぱり変だ。

「今日は副社長のおうちに泊まってもいいですか?
 あの……心配で離れたくないんです。」

 朱莉の中から寮に入ってすぐの『ひどいこと』が抜け落ちているような言葉だった。

「お前、馬鹿だろ。
 今の俺の話、聞いてたか?」

 顔を上げると澄んだ純粋そうな瞳と目が合った。