顔を手で覆った朱莉がさすがに震え始めて体を丸めた。

「怖いなら、どうして……。」

 脅すつもりだった。
 震え上がらせて、思惑通りのはずだった。

 それなのに小さい体を震わせる朱莉を目の当たりにすると胸が痛んだ。

 苛立ちをこいつにぶつけて何してんだ…。

「……大丈夫です。
 副社長の好きにしてください。」

 震えて揺れる小さな声に心臓を鷲掴みにされたような痛みが走った。

 自分が情けなくなって朱莉から離れると、そのまま壁際に崩れ落ちるように座った。

 朱莉の小さな声は尚も続きを話した。

「食べたのを忘れられないのでしたら、食べられてもいいです。
 あの……副社長は変態さんだから。」

「………………。」

 狐の言った『人を食ったのを忘れられない奴ら』の捨て台詞。
 こいつなら『食った』が『変態さん』に繋がってもおかしくないと理解して乾いた笑いがこぼれた。

 副社長って……そう言う時は動揺か緊張してる時だろうが。
 何を言ってんだか……。

「変態さんはないだろ。
 誰彼構わずってわけじゃない。」

 だからってこいつのことをどう思っているのか自分でも分からなかった。

 呪いを解くのには真実の愛が必要で、キスしてくれる方にさえ愛があればいいのか。
 もしかしたら、受け取る側の人外の気持ちはどうでもいいのではないか……。

 ふとそんなことが頭をよぎる。

 笑ったお陰なのか冷静さを取り戻すと立ち上がった。

「飯、まだだろ?
 コンビニで買ってくるから、ここで待てるか?」

 体を丸めて小さくまだ震える朱莉に優しくする術を持っていなかった。

 コクコクと首を縦に振る朱莉を確認してから部屋を出た。
 背中を向けたまま「俺の服、適当に着ててくれ。……悪かった」と言い残して。

 この間に逃げるのならそうして欲しかった。
 ゆっくりと自分の頭も冷やすように時間をかけて買い物をした。


 寮に帰って部屋の扉を開けると驚いたように肩を揺らす朱莉がいた。

 小動物かよ。
 って俺に言われたくないよな。