あてもなく歩く。
 それでも帰る場所は寮しかなくて寮へ足を向けた。

 寮に帰ると寮の前に朱莉がいた。

 どうして……と思い浮かんで、こいつといると毎回どうしてと思わないといけないのかとうんざりした。

 疑問の答えは朱莉がくれた。

「爺やさんに健吾さんと居てと言われたので待っていました。」

 爺め……。本当に食えない奴。

「帰った方がいい。
 今、一緒にいたら何するか分かんねーぞ。」

 そのうち俺を怖がるようになると思っていたのに、心のどこかでそうならないでくれと思っていた。

 今はもうそれさえもどうでも良かった。

 脅しにも微動だにしない朱莉にため息を吐くと、腕を引いた。

「どうなっても知らないからな。」

 手をつかみ寮の玄関へと引き入れた。
 つかんだ手が思っていたよりもずっとずっと小さくて胸がキリキリと痛んだ。

「どうして俺のところに来たんだ。」

「それは健吾さんが心配で……。」

 見え透いた嘘に嫌気がさす。

「馬鹿言うな。お前はオヤジが……社長の息子だから俺のこと気にするんだろ?」

 言いたくなかった。
 言えば自分が惨めになるだけなのに、言わずにいられなかった。

 狼狽えるか、素知らぬ顔をするのかと想像していたのとは違う、朱莉は怒った顔をしていた。

「そんなわけないじゃないですか。
 何もかもをお持ちなのに考えは捻くれたものをお持ちですね。」

 こいつに説教なんかされたくない。
 お前に何が分かる。

 苛立ちを隠すつもりもなく朱莉を押し倒した。

 押し倒しても凛とした表情に余計に苛立ちを募らせて乱暴に服を破く。
 ちぎられたボタンが乾いた音を立てて転がっていった。