「おい。起きろ。おい!」

 眠そうな朱莉が「おはようハリーくん」と呑気に挨拶をする。

「早く起きろ。今日は重要な会議が……。」

「あ、その事でしたら大丈夫です。
 その為に来ました。」

 何が?何を言っているんだ。

 ぷっくりとしている唇を目で追って、その唇に噛みつきたくなる。
 ハリネズミの姿のままでは獣に引っ張られて………。

「勝手にキスしないって約束しましたし。」

 何を馬鹿なことを言ってるんだ!!

 朱莉の腕から駆け上がって、肩に登る。
 唇に噛みつこうと体を伸ばした。
 体が小さくて落ちそうになったところを朱莉にキャッチされた。

 キャッチされた手のひらの上で視線を合わされてドキリとする。
 今も変わらない純粋そうな瞳。

「えっと注意点を教わったんです。
 手のひらに乗せたままだと人間に戻った時に重いから下に置いてから……。」

 言いながらベッドに置くと背中を撫でられた。

「おはようのキスしても大丈夫ですか?」

 その仕草が可愛らしくて覗き込んでいる朱莉の方へ2、3歩前に進むと唇にハリネズミの口を重ね合わせた。
 可愛さに免じて噛み付かずに触れさせるだけ。

 ゆっくり、ゆっくり、戻った体は重ねたままの唇から朱莉のあの味を感じて、また衝動に駆られそうになる。

「健吾さん裸ですよ!
 早く服を着て準備をしないと。」

 やけに抵抗する朱莉が体を押しのけてイヤイヤと頭を振る。
 タイミングよく部屋の扉が開いて爺が顔を出した。

「坊っちゃん準備が済みましたら、玄関前の車までお願い致します。
 本来なら出発の時間です。」

 爺め。どうせまた覗いていたんだな。

 赤い顔の朱莉からして朱莉も爺がいることを知っていたみたいだ。

 仕方ない。準備するか。

 クローゼットを開けてスーツを選んでいると、使ったままだった布やスワロスキーが整頓されて片付けられているのが目に入った。

 自分が分かりやすいようにしまってあって爺でさえも触って欲しくなかった材料や道具。

 勝手に触るなと戒めたいのに朱莉がしまった入れ方の方が見やすくて使いやすそうだった。

「おい。行くぞ。」

 怒ることは出来なくて、だけれど、ありがとうも言いたくなくて気づいていないフリをした。