寮に帰ると手をつけられなかったウェディングドレスの前に座った。
 しまっておいたレースや生地を出すと、取り憑かれたように縫製した。

 部屋には何種類もの生地やレースが溢れ、それが縫い終われば、ビーズやスワロスキーなど細かい物を出してきて、縫い付ける。
 照明や陽の光に当たった時に綺麗に輝くようにドレスにも出来上がっていたベールにも付けていく。

 いつもだと根を詰め過ぎていつの間にかハリネズミに変わっていた。
 細かい作業は助かるが、どうしても布の扱いが上手く出来なくてその日は諦めることが多かった。

 それが今回はどんなに時を忘れても人のままでいられた。

 今日は何かから逃れるように集中した。

 どうして俺はあんなに求めてしまったんだろう。
 どうして俺は人間でいられるんだろう。
 あいつは社長の息子の俺に興味があったんじゃなかったのか。
 真実の愛になんてなるわけない。
 それなのに、どうして………。

 ぼんやりした途端に解けない問いのループに陥りそうで何も考えられないように忙しなく作業をし続けた。

 最後の仕上げを残して、倒れるようにその場で眠った。

 ドレスは花嫁が着るのを今か今かと待っているようだった。