「いつノックすればいいのか困りましたよ。」

 言葉とは裏腹に嬉しそうな爺に辟易する。

「覗いてたらノックの意味ねぇ。」

 悪態をついても、嬉しそうな爺には無駄だった。

 僅かに開いているドアに気づいて、色々を中断すると朱莉を帰らせた。
 熱っぽい顔をした朱莉を1人で帰らせるのは心配で覗いていた爺に送るのを頼んだ。

 送り終えて戻ってきた爺がこれである。

「だいたい昨日、俺が寝てるのにあいつを部屋に入れるなんて……。」

 まったく爺は何をしてるんだか。

「朱莉様なら大丈夫だと思いましたので。
 実際、大丈夫でしたでしょう?」

「記憶を消すのを先延ばしただけだ。」

 オヤジや爺の思惑通りになったようで気に食わない。

「またまた〜。先延ばしなんて坊っちゃんが一番嫌いなやつですよね?」

 ニマニマする爺に付き合ってられなくて席を立つ。

「データ整理は終わったから俺も帰る。」

「でしたら朱莉様とご一緒すればよろしいのに。」

「爺に文句を言わなきゃ腹の虫が治まらないんだよ。」

 そしてあいつがいる前でこんな話したくない。

 踵を返して会議室を出る。

「お送り致します。」

 爺が慌てて後に続くがそれを止めて指示をした。

「あの狐。大丈夫なのかオヤジに報告と監視を頼むぞ。」

「はい。直ちに。」

 引き締まった顔に変わった爺は会議室を出た後、健吾とは別の方へ歩いていった。