何故ここにいるのか。

 窓を開けるよりも外に出ようとエレベーターに向かう途中に、居るはずのない人と遭遇した。

 制服からして我が社の社員だろうというのは伺える。
 そういえば今年から受付に女を雇ったと父が言っていたか。

 有名どころとは程遠い女子短大卒の女。
 見るからに挙動不審で大幅に優しく見積もってやれば迷い込んだ子羊。

 だが、受付の仕事の条件には1階ロビーから動かないことが含まれている。
 完全なる規約違反だ。

 ため息を1つ吐いて女に近づこうとすると近くの部屋から声が聞こえた。

「あーぁ。早く番いを探さなくちゃな。
 お前はもう見つかったのか?」

「当たり前だろ。
 早めに見つけた方が安心だ。」

 あぁ。早く外に出れば良かった。
 そうすればこんな煩わしい会話を聞くこともないし、この女も誰か別の奴に見つかって規約違反でクビになるだけだ。

「相手にはもう話したのか?
 俺たちが……。」

 部屋の中から聞こえる会話で再認識したくない現実が突きつけられる。

「人外だってこと。」

 聞こえてくる言葉を振り払うように女の肩をつかんでエレベーターに引きずった。
 「あ」と女が言ったような気がしたが、俺の知ったことじゃない。

 外に行くつもりだった健吾もエレベーターに乗った。

 エレベーターのドアがゆっくりと閉まるのをただ見つめていた。
 もう2度と開かなければいいのにと願望に近い思いをドアに投げつけながら。

「ここって外人モデルを派遣する会社だったんですか?」

 外人…人外……こいつは都合のいい耳をしているらしい。

 無視を決め込んでいる健吾に女は話すのを止めない。

「受付してても綺麗な方ばかりが通るのですごいなぁって。
 部屋の中の人たちは何かイベントですか?
 猫耳や犬の尻尾なんかをつけた人たちが…。」

「おい。受付は上の階に来てはいけない規約のはずだ。」

「お兄さんもモデルですか?きゃっ。」

 女を道路に投げ捨てて踵を返す。
 外に出る気分では無くなって会社に戻ることにした。

 女が勘違いをしていてくれて助かる。
 ちょっと馬鹿なのは雇う上の条件だったのかもな。

 夢だとでも思うように。