その時、部屋の扉が開いて救世主に感じる爺の顔が覗いた。

「あの……。成宮朱莉様。
 坊っちゃ………いえ。ハリー様は大丈夫ですか?」

「このハリネズミちゃん、ハリーちゃんなんですね!」

「あ、いえ。
 どちからと言えばハリーくんです。」

 爺まで何、言ってるんだよ!

「そっか。男の子だったんだ。ごめんね。」

 手が伸びてきて、気付けば逆立てたままだった針から髪飾りが取られた。
 安堵しつつ、逆立てた針が怖くないのかと朱莉は変わっているという認識を新たにした。

「成宮朱莉さま。
 お食事に行かれてはいかがですか?」

「でもハリーくんが……。」

「ハリネズミは慣れない環境はストレスを感じるそうですので、少しずつ慣らしてはいかがでしょう。」

 爺の完全なる、ただのハリネズミとしての説明の仕方。
 必要な演技なのは分かる。

 それでもイライラする。
 俺はハリネズミなんかじゃないと叫びたい衝動に駆られる。

「そうですね。
 お近づきの印も失敗しちゃいましたし。
 せっかく健吾さんに頼ってもらえたと思ったのに………。」

 残念そうな朱莉に胸の奥が痛んだ。

 望んだ通りになったんだ。
 良かったじゃないか。
 そう何度か心の中で言い聞かせた。

「どうして坊っちゃんにそこまでされるんですか?」

 何を爺は聞いてるんだ。
 文句が口を出そうなのに、朱莉の返事に緊張する。

 何度も見ている明るい笑顔で当然のことのように言った。

「社長に健吾さんをその気にさせてと言われたので。」

 オヤジの、社長の息子だから。
 分かっていたことだ。

 失笑すら出ない。
 やっぱりこいつも同じだ。

 聞いて良かったという気持ちと聞かなければ良かったという気持ちが交互に訪れた。

 どちらにしても……それが本心なのだ。

「ハリーくん。 また今度ね。
 健吾さんに何が好きか聞いてくるね。」

 手を振っているであろう朱莉を見ることが出来なかった。