やってきた朱莉はまず想像以上のことをしでかした。

「ハリネズミちゃん。ほら。」

 何をされたのか分からないまま、何かが頭に乗せられた。
 鏡を向けられてギョッとする。

「可愛い!似合ってるね。」

 頭の上には桃色に薄い黄緑のストライプ。
 どうやってつけたのかファンシーなリボンがついていた。

 女だと……メスだと思ってやがる。

 違うと訂正する方法もなく、脱力していると変なものが視界に入った。

 事もあろうか虫かごを持ってきたのだ。

「ハリネズミちゃん。
 任せて!好物を調べたの。
 獲れたてをあげたくて、頑張って捕まえてきた!!」

 嬉しそうに見せつける虫かごの中にはバッタ。
 この都会のどこにバッタが………。

「ごめんね。本当はコオロギがいいみたいなんだけど、春だからバッタが精一杯で。」

 謝られてもこちらサイドはバッタはもちろんコオロギだって勘弁して欲しい。

 それなのに虫かごと共にどこから出したのか『ハリネズミのやさしい飼い方』と書かれた本を片手に持って頷いている。

「うんうん。 ハリネズミは自分で捕まえて食べます。かぁ。」

 納得した様子で『食べない』とは思っていないらしい。

 そこまで獣になれきれていない。
 それでも今後の為に慣れておくべきか?

 心の葛藤をよそにバッタは解き放たれた。

 おい。待て。普通、放つか!?

 ハリネズミのサイズからはバッタが巨大な化け物に見える。

 部屋へと降り立ったバッタと目が合った……気がした。
 目つきと口元がリアルで気持ち悪い。

 そりゃ本物だからな。と、一人ツッコミをして気を紛らわし……たい。

 バッタもバッタだ。
 俺の方に飛んできた!!
 馬鹿!待て!こっちが捕食者だぞ!

 思わず針を逆立てて威嚇する。
 さすがに驚いたのかバッタは逆方向に飛んでいった。

「あれ。嫌いなのかな。
 あ、『嫌いな子もいます』って書いてあった!
 ごめんね。今、片付けるね。」

 お、おう。しっかり片付けろ。
 夜中にバッタとご対面とか勘弁しろよ。

 ホッと息をついて、ふと気付いた。
 食事はどうするんだ。
 この姿で長時間いたことはない。
 トイレも……。

 無計画で始めたことを後悔し始めた。

 いや。でもトイレの世話なんて一番やりたくないことだ。
 そこで本性が分かるんじゃ……。

 羞恥心と虚栄心、欺瞞を暴いてやるという意気込みが綯い交ぜになって、訳が分からなくなりそうだった。