「おはようございます……」
リビングに入ると父と坂崎さんが向かい合ってソファーに座りコーヒーを飲んでいた。
「実弥さんおはようございます」
そう言って立ち上がった坂崎さんは、セーターにジーンズというラフなコーディネートなのに様になってかっこいい。同じラフでも私とは大違いでまたしても恥ずかしさがこみ上げた。
「朝早くにすみません」
申し訳なさそうに謝る坂崎さんに「いいえ大丈夫です」と冷たく返した。休みでも8時まで寝ていたのを他人に知られると恥ずかしさも湧く。
「どうせ父に無理に来いと言われたんでしょうから」
私の嫌みに坂崎さんは目を見開いた。
「実弥!」
父の怒声を無視してキッチンに行くと冷蔵庫から牛乳を出してコップに注いだ。朝からくだらない親子喧嘩を見せられるなんて坂崎さんに同情してしまう。私を見る坂崎さんの目は驚いたのか真ん丸に見開かれていた。
どうぞ坂崎さん、私を嫌いになってください。
そう心の中で彼に話しかけた。
普通なら坂崎さんのようなイケメンに好かれたいと思うだろう。けれど私は逆に嫌われてしまいたい。坂崎さんから父に私とは会いたくないと言ってほしい。そのためならどんな失礼な事だってしてみせるのに。
家を出ると決めた今の私に怖いものはなかった。
ふと坂崎さんと目が合った。すると彼は私に向かってまたしても微笑んだ。呆れて睨まれたいとすら思うのに、私に微笑む彼の気持ちが理解できない。私が嫌われようとわざと失礼な言動をしていることに気がついているのだろうか。坂崎さんの笑顔に心の中を見透かされたような気になって居心地が悪くなった。
「じゃあ実弥さん行きましょうか」
「んぇ?」
坂崎さんの言葉に間抜けな声を出してしまった。行きましょうと言われても意味がわからない。



