「優菜を経由して高木さんに今日警察署から出てくるって教えてもらったんです」

優菜は高木さんに連絡先を聞かれて迷惑そうにしていたけれど、今になってそれが役に立った。今朝出勤前の優菜に電話をかけ昨夜のことを話した。高木さんを軽いノリだから苦手だと言っていたけれど、私の必死の頼みで連絡を取ってくれたのだ。

「高木のアホ……」

シバケンは溜め息をついて呟いた。

「すみません、突然押しかけて……」

「いや……別に」

「肩は大丈夫ですか?」

「ああ……はい……」

「病院には行かれましたか?」

「行ってないですよ。痛みますけど腕動きますし、きっとただの打撲ですから」

そう言う割には先ほどから左腕を動かしていない。ビジネスバッグは右手で持って、左腕は上げることなく歩くのもどこかぎこちない。

「すみませんでした。私のせいで……」

シバケンに頭を下げた。

「ちょっと! 顔上げて!」

謝る私にシバケンは慌てたけれど「いてっ!」と小さく声を出して体の動きが止まった。やはり肩が痛むのだろう。酔った男性に相当な高さと勢いで蹴られたのだから。

「本当に大丈夫だから」

「でも……」

シバケンの表情は硬い。私の目を一切見ようとしない。きっと迷惑なのだ。私のせいで怪我をしたのに職場にまで来るなんて困るに決まっている。これではストーカーみたいじゃないか。アホは私の方だ。

「迷惑ですよね……こんな風に突然来て……」

「そんなことないよ……」

「帰りますね。本当にすみませんでした」

帰ろうとする私をシバケンは引きとめようと腕を上げてまたしても「痛い」と呻いた。

「違うんだ。君に会うのが恥ずかしくて……」

「え?」

シバケンの言葉を聞き返した。

「かっこ悪いところ見られてるから……」

弱々しい声で放った言葉に、私はまたしても「え?」と聞き返した。