会社から近いとしても古明橋駅から歩いて10分ほどのところにある古明橋警察署を訪れるのは初めてのことだった。警察署自体に用があることなんて滅多になく、訪れるとしたら免許の更新の時だけだ。
警察署の入り口には常に警察官が立っているものだと思っていた私は、パトカーが1台も止まっていない駐車場と無人の入り口に怖気づいていた。
ここで待っていればシバケンに会えると教えてもらった。けれど正確な時間が分からず、数時間待っていなければいけないかもしれないし、もしかしたらシバケンは既に帰ってしまっていることも有り得た。
どうしようか迷って入り口で突っ立っているだけの私は警察署の前では目立っていた。自動ドアからはスーツを着た刑事らしき人が頻繁に出入りしていて、ウロウロしている私をじろじろと見ていく。警察署の前を通っただけの一般人も私を不審な目で見ていた。
駐車場に一台のパトカーが入ってきて止まった。すると入り口の自動ドアが開き、中からジャージ姿の男が警察官二人に両腕を掴まれながら出てきた。男は上下グレーのスウェットにゴム製のサンダルを履いて虚ろな目をして歩いている。左右の腕を掴む警察官も眉間にしわを寄せて緊張した面持ちだ。その異様な姿に私は思わず道をあけた。男は警察官に連れられパトカーに乗せられた。そのまま何事もなかったかのように駐車場から出てどこかに行ってしまった。
きっと何か罪を犯した人だったのかな。でも手錠をしてる感じじゃなかったし……。
自然と両肘を抱きこんだ。滅多に来ない場所で滅多に会わない人とすれ違い緊張がピークだ。



