それでも私はその場を動けないでいた。目の前で起こった騒ぎに頭がついていかない。タクシー運転手と乗客の揉め事に対応する警察官、怪我をしてしまったシバケン。普通に生活していたらあまり見る機会なんてなかった。知っている人がトラブルに巻き込まれたら心配になってしまう。
シバケンは大丈夫だろうか。救急車に乗らずにパトカーで行ってしまったけれど、病院に行けるのだろうか。心配で堪らない。だって私がこの場にいなければシバケンは油断しないで酔っ払いの蹴りをかわせたかもしれなかったのに。

突然肩に衝撃を受けて体がよろけた。

「ごめんなさい!」

私とぶつかった学生らしき女の子が慌てて謝ったけれど、何の反応もできないでいる私に不審な顔を向けて友人の元に駆けて行った。それで我に返った私はようやくノロノロと駅に向かって足を動かした。
過去に酔っ払いから守ってくれたのに、酔って私を抱きしめたシバケンは今度は酔った男性を相手にしている。私にした行動が信じられないくらいに今夜仕事中の彼はかっこよかった。

どちらが本当のシバケンなんだろう。シバケンがわからない。だからもっとシバケンを知りたい。



◇◇◇◇◇



シバケンのことを考えてろくに眠ることもできないまま土曜の朝を迎えた。昨日負傷した彼のことが心配で、どうすれば状況が分かるのだろうとずっと考えていた。それにあの夜のことを有耶無耶にはしたくないと思うようになった。
でも連絡先を知らないし、警察署に直接問い合わせるなんてことをすればシバケンも困るだろうからしたくはない。
誰か警察に伝でもあればいいのだけれど……。
そうして心当たりを思いつくと、スマートフォンをタップして優菜に電話をかけた。