駆け寄ろうとする私にシバケンは手を前に突き出して『来るな』と無言で訴えた。その行動に私は足を止めた。シバケンは痛みで顔を歪めながらも、私の目を見て首を左右に振った。そんなことをされてはその場から動けない。感情に任せて助けようとした自分が恥ずかしい。シバケンは蹴られるという予測できない事態になっても冷静だ。
他の二人の警察官が地面に倒れたままの酔った男性を介抱して、もう一人がうずくまるシバケンに駆け寄った。その焦った顔の警察官は、よく見ると居酒屋で出会った高木さんだった。シバケンと組んでパトカーに乗っているという彼は相方の様子を心配している。
今ここで私がシバケンのそばに行っても、彼らの仕事の邪魔をしてしまうだけだと気がついた。私のような一般人がこの状況では何かをできる訳がない。彼らの邪魔にならないようにただ見守ることしかできないのだ。
いつの間にか救急車が来て酔った男性を担架に乗せて行ってしまった。事情を聞くためにタクシー運転手と話す警察官もいれば、人混みで乱れたロータリーの交通整理をする警察官もいた。高木さんはパトカーの無線で何かを話していた。
そうしているうちにタクシー運転手は警察官に頭を下げるとタクシーに乗ってその場から去っていき、高木さんはパトカーの運転席に、シバケンは肩を庇いながら助手席に乗り込んだ。車内から離れた場所に立ち尽くす私を見たけれど、すぐに目を逸らして助手席のドアを閉めてしまった。パトカーは走り去り、徒歩の警察官もロータリーから離れて駅へ戻っていった。集まった人々もいつの間にか散って、いつも通りの駅前の喧騒が戻ってきた。



