無視は無しで【短編】




「何も無ぇよ」



そう言って、先輩はそっぽ向いてしまったので、私は期待して、先輩の顔を覗き込んだ。

いろんなことに心が不安定になり、聞きたくなった。



「先輩…私のこと、どう思ってますか」

「なっ?!」



大きめな声を発した先輩は、軽く後ろにのけ反る。

けれど今度は、顔を真っ赤にしたまま、目線もしっかりしたままで。

先輩は困った様に言った。



「美濃部は、本当にいい子だって…思ってるよ。だからさ……」



言葉をそこで止められると、何とも言えない気持ちになる。



「『だから……』何ですか?」



問い返しても、田中先輩の返事はなかなか返ってこない。

先輩は、しょげてしまった犬の様な顔をしながら、私をよく見て言った。



「だからさ、無視とかしないでくれよ。本当にへこむから」



さっき無視をしてしまった罪悪感と、先輩の可愛い反応を見れてしまったお得感が、私の中で走り回る。

いや、先輩の気持ちも聞けてしまったから、それも込みでお得感のが、圧倒的に多い。



「ちゃんと見てますからね、先輩のこと」

「えっ、お、おう…!」



さっきまで、しょげていたくせに先輩は、嬉しそうに笑っていた。

その顔は私が嬉しくなった、休み時間のあの満面の笑みだった。







無視は無しで
おわり。