泣いているのだろうか、そうだとしたら虫が良すぎる。

紫花は突如歩き出す。フラフラと、端にある席に向かって。

紫花は前を向く。最低限の荷物は机の横にかけ、ただ意味もなく前を向く。

よくわからない。

よくわからない顔をしていた。

泣きそうで、あるいは怒っていて、喜んでいて、無反応で、興奮しているような。

どの言葉にも取れるような、微妙な顔をしていた。




_____紫花はいつからこんな顔をしている??



あの、笑うと可愛い顔は??
あの、怒ると冷たい顔は??
あの、悔しそうに泣く顔は??


紫花は、どこに行ったんだろう。

今、俺たちの前にいる“女”は誰なんだろう。
紫花の形をしていて、だけれど中身が不完全な人形のようなもの。

不気味だった。


「…あーあ、シラケた。」
「その顔ムカつくんだけど。早くそっから飛べよ。」

向かい校舎の屋上を指し示す女子。
奈々未とか、言っただろうか。率先して紫花を責めていた気がする。


紫花は奈々未の指した屋上に、今日初めて関心を示した。
チラリと目を向けるだけだったが、少し悲しそうに笑った。