永倉さんと原田さんが隊を離脱。
それは今、残されている隊士たちにも大きな変化をもたらせた。

京からずっと新選組として共に歩き続けた中の仲間の何人かも、
永倉さんたちと共に隊を離脱した。


「皆、話がある。
 聞いてくれ。

 先の戦いで負傷したものたちは、
 このままここで傷を癒してくれ。

 俺たちは新たに募集する隊士たちと共に、
 会津へと向かうこととなる」



土方さんの言葉に傷を負ったものも、
昔からの新選組の絆を持つ者たちは「副長、私も連れて行ってください」「私もお供にします」っと
次々と我先へと声が上がる。

そんな隊士たちに最初は、『ダメだ。足手まといだ』などといいながら、
最後の最後には『好きにしろ』と許してしまう、優しさを見せる土方さん。 


だけどそれは新たな戦いの始まりを告げる。


私と舞は江戸での滞在中、医学所の手伝いをしながら、
負傷兵の手当のやり方とかを学ばせてもらう。


進軍中に何があるかわからないのは、
前回の敬里の風邪でもわかるように身に染みてる。

それ故に、今まではどちらかと言えば知ろうとしなかった、
漢方薬についても教えてもらう。

私たちの世界でも風邪薬として知られている常備薬の葛根湯。
葛根湯は発汗・解熱作用のある葛【くず】の根を主体に、
麻黄【まおう】、大棗【たいそう】、桂枝【けいし】を調合したもの。

38度を超えていそうな高熱の時には、敬里は確実に飲まされて、
もしかしたら私も飲まされたのかもしれない、あのミミズを乾燥させた地竜。

セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ。
私たちの世界で、七草がゆに入れると良いとされるこの葉たちも、
胃腸を助け、風邪の予防薬として重宝されていることもわかった。


傷薬にはケイヒ・シャクヤク・ダイオウ・ジオウ・ソウハクヒ・トウキ・カンボウイを混ぜたもの。

抗菌効果があるものがダイオウ。
止血効果はジオウ。
鎮痛効果はシャクヤク。

後はアロエ。

高くて手に入れづらい漢方薬から、民間薬として安価で手に入れやすいものまで、
私が知らないことが沢山あった。

教えられるままに紙にメモって次の移動に備えて、
薬を買い集めながら過ごす日々。


そして総司として過ごす敬里は、
病が悪化して動けなくなったことを理由に隊を離れることになった。

だけどそれは、多分あっちに行ってしまった沖田総司の歴史を守るためであって、
この世界にいる敬里が病気で動けないわけじゃない。

敬里は別の場所で療養する形をとって、
今は近藤さんや私たちとは別の行動をとるように舞と私で仕向けた。

今のアイツ沖田総司じゃなくて、一人の敬里という名の名もない存在。

沖田さんと同じ装いをしていた髪を落とし、
洋風の井出たちをさせて、隊士たちが気づかないように変装させて、
一般隊士として新規募集の際に、近藤さんの部隊へと合流させた。

大久保大和と名乗る近藤さんのもとに新規に集められた隊士たちと共に、
会津へと向かい始めた私たちは下総の国流山【千葉流山市】へと到着し、
その場所で新隊士たちの訓練を行うため、二週間ほどの滞在が決まった。


銃の扱い方、刀の振るい方。
新選組が先の戦で学んできたことを新しい隊士たちに指導していく。


そんな滞在中は、流山の人たちは私たちを手厚く持て成してくれた。

村人たちから炊き出しで振る舞いを頂いて、
隊士たちが体を休める場所も提供してくれた。