私が自分自身の想いを吐き出した日、
花桜のお祖母さまが、私たちの前にそっと置いたのは古びた手紙だった。

紙が色褪せて開くのも心配な具合のその紙。


「瑠花さん、こちらの文を貴方にお預けしましょう。
 この手紙は明里様の代より、大切に受け継がれている我が家の大切なもの。

 沖影と共に受け継がれているものです。

 この文があるが故に、私も主人も敬里の運命と花桜が背負うこととなる宿命を受け入れる覚悟を決めました」



運命と宿命を受け入れる覚悟。


お祖母さまが神妙な面持ちで告げた言葉は、
私には重すぎて、では心して開封させて頂きますなんて即答できるものではなかった。



「貴重なお品を私に見せてくださろうとして頂き、
 感謝の言葉しかありません。

 ですが今の私は自分自身のことしか考えることが出来ず、
 そちらの文をお見せいただくにはまだまだ未熟な気が致します。

 日を改めて拝読させて頂いても宜しいでしょうか?」


そう言って私は返事をするしかできなかった。


「えぇ。それは構いません。
 この文は暫く、瑠花さんに委ねましょう。

 瑠花さん自身の覚悟がさだまったら、
 開封して読んでください」


お祖母さまはそう言うと布に包(くる)んで、
そっと木箱の中へと片づけて、私の前へと差し出した。

思わずパパの方に視線を向ける。

パパは私の背中を押してくれるかのように、
ゆっくりと頷いてくれた。

それを合図にするかのように、
山波家の家宝と共に受け継がれてきた手紙を、
自分の元に引き寄せた。


視線の先の鏡が映し出すのは、
多分、花桜の蝦夷地での暮らし。


木造家屋の天井につるされたシャンデリア。

床板の上にアクセントのように敷かれている絨毯。
そして西洋風のテーブルやソファー。



モノクロが映し出す世界だけれど私の記憶の中では、
旅行に出かけた先で見た景色と、
テレビやドラマで見た映像が状況を鮮やかに補完してくれる。



「瑠花、今日も遅くなってしまったね。
 ママが心配しているよ。

 一度自宅に帰って、また明日お邪魔させて貰いなさい」


鏡に視線を向けたまま動けなくなっている私に、
パパが声をかけた。



その声のままに、ゆっくりとその場所から立ち上がり、
山波の家を後にした。