「近藤さんが捕まったと言う噂は流れてきた。
それは出まかせではなく、本当だったんだな」
「えっと……原田さんは?
原田さんも靖兵隊として一緒に行動されてたんじゃ?」
そう告げると、永倉さんは静かに切り出した。
「原田とは山崎宿で別れた。
何か用事があるみたいでな。
だが……近藤さんが捕まったというのが事実であったならば、
左之は左之で思うところがあったのかもしれないな」
そう静かに紡いだ。
そう……皆、うちに秘めた思いを隠しながら、
自分が傷つくことをいとおうとせずに、まっすぐに立ち向かっていく。
それがこの幕末で私が出会ってきた漢たちの姿。
「さっ、山波君は自分の持ち場へ。
私も今は私自身が為すべきことをするよ」
そう言って永倉さんは自分の持ち場へと帰っていった。
私も評議会が行われている会場の傍へと向かい、
土方さんの帰りを待つ。
長い会議の後、土方さんは新たな決意に満ちた表情で姿を見せる。
「お帰りなさい。土方さん。
評議会はいかがでしたか?」
「あぁ、俺は先鋒軍参謀の任に着くこととなった」
先鋒軍参謀?
聞きなれない役職だけど、何かの役割を与えられるということはお目出度いことだと思って、
「おめでとうございます」と深くお辞儀する。
「あぁ。
機智勇略を兼ね備えた人と議会で評価され、先鋒軍参謀を任される運びとなった。
まぁ、誰かに評価されるって言うのは嬉しいものだな」
照れ臭そうに呟く土方さん。
「先鋒軍参謀役でも、鬼の副長は健在ですか?」
冗談めかすように紡いだ言葉に、
土方さんはまっすぐに私に向き直った。
「今でも新選組は俺にとっては大切だ。
かっちゃんに託された誇が、俺の中から消えることはないだろう。
だが時代と共に俺たちも形を変えていかないといかない。
何時までも新選組の名前にこだわっていられる時代じゃないんだ。
今日から俺は、新選組の鬼の副長として執着し続けるのを自ら開放し、
新選組も含む、旧幕府軍の参謀として歩き出す。
その中に、あの時代を駆け抜けた鬼の副長もたまにいるだろうがな」
そう言って、懐かしそうに空を見上げながら紡ぎだした。
「山波……。
そういや、お前もこうやって、何度も何度も空を見上げてたな……。
お前が見上げる空は、何処に繋がってるんだ?」
そう言いながら、土方さんは空に向かって何かを報告しているみたいだった。
多分……離れている今も、
心は近藤さんと繋がっている。
今は、現代に帰っているかも知れない瑠花や沖田さん。
そして……山崎さん。
それだけじゃない。
ずっと一緒に戦ってきた隊士たちの絆は、
今も心の中で、土方さんの誇と共に生き続けている。
そんな風に思えた瞬間だった。
私たちは、その日のうちに、宇都宮へ向けて動き出すこととなる。
会津藩の秋月登之助さんを隊長とする伝習第一大隊と新選組隊士たちをあわせた、
1000余名が先鋒軍の役割を担うことになる。
出発した私たちは、小金宿、水海道を経て4日後には宗道にて宿陣する。
土方さんの新たな決意から始まる、
新しい戦いは、こうして幕を開こうとしていた。



