あぁ、こんなことならやっぱり私も、姫蓮ちゃんの隣の部屋がいいって言えば良かった。


こんなにも未来予知能力が欲しいと思ったのは、初めてかもしれない。


「無駄に広すぎるんだって……ここ、どこなのよ」


ここに来るまでにすれ違った数人の使用人さん達は、みんなバタバタと忙しそうにしていて、

とてもじゃないけれど『迷子になりました』なんて言える雰囲気じゃなかった。


助けを求めたい気持ちをグッと堪えて、小さく会釈をして見送ったことを、絶賛公開中だ。


「……蘭さん?」


───ビクッ


突然、後ろから名前を呼ばれ肩が跳ねる。


振り向けば、そこには今朝、広間で紅蓮の隣に座っていた光蓮様の面影を感じさせる爽やかな青年が一人立っていた。


親子結びの場にもいたし、姫蓮ちゃんが紅蓮の妹ということは、きっと、この方は紅蓮のお兄さん?


弟にしては、……紅蓮よりもずっと落ち着いた雰囲気を纏っている。

姫蓮ちゃんと同じ色素の薄い茶色の瞳に、色素の薄い栗色の紅蓮よりも少し長めの髪。


「挨拶が遅れました、紅蓮の兄の睡蓮」

「あ、涼……じゃなくて、東里蘭です」

「うん、知ってる。こんなところでどうかしたの?その先は紅蓮の部屋だけど、紅蓮に用事?」


私の自己紹介にふわりと笑ったあとで、睡蓮様は小さく首をかしげた。


「え……?紅蓮の部屋?」

「そう、紅蓮と虎太くんの部屋がある」

「あ、……実は、今日から東雲家でお部屋を頂くことになりまして、部屋へ向かう途中だったんですけど」

「あぁ、なるほど。じゃあ迷子になったんだね」



そ、そんな笑顔で、ドストレートに言わないで下さい。