愛し紅蓮の瞳

もう当分、東雲家には来ないようにしよう。

そしたらこうして東雲家で朝ごはんを頂くこともないわけだし。双葉さん怖いんだもん。


それに何より、日常生活で競うなんて私には難題すぎる。


私は至って庶民育ちなんだから、急にお嬢育ちと戦って勝てるかって、勝てるわけがありませんよ。


「お食事中に失礼いたします」


突然、広間の入口に屋敷の使用人らしき男性が現れ、食事の手を止めたみんなが一斉に広間の入口へと視線を向けた。


「……もう来たのか?予定より随分早かったな」


光蓮様の冷静な口ぶりを聞いて、何だかやけにゾワゾワッと冷たいものを背中に感じる。


そんな私の不安を知ってか知らずか、隣では姫蓮ちゃんがゴクリと息を呑む気配がした。


「はい、たった今、西風から涼音様がご到着なさりました」

「そうか、すぐに向かう。部屋に通して少し待ってもらいなさい」

「かしこまりました」


淡々とした会話のあとで、男性は一度深々と礼をすると、広間を後にした。

ついに、ついに来てしまった。西風家のお嬢様。


……一体、どんな子なんだろう。


「蘭……」

「は、はい!」



突然、双葉さんに名前を呼ばれ背筋が伸びる。