愛し紅蓮の瞳



「今……何だったの?」


見間違い?……目が寒さでおかしくなったとか。

不気味。
そんな気持ちを誤魔化すように、急いで柄杓を左手に持ち替える。


「早くお参りして帰ろう……」


けれど、次の瞬間、今度は音が消えた。


「……え?」

さっきまで聞こえていた雪の降る音も。

カラスの鳴く声も。

遠くを走る車の音も。

全部。

何も聞こえない。

まるで世界から、音だけが切り取られたみたいだった。

怖い。

そう思った瞬間――

水面に、何かが映った。

私……?じゃ、ない。

人影。

「……誰?」


反射的に顔を上げるけれど、辺りには誰もいない。
恐る恐る、もう一度、水面を見る。

そこには、綺麗な男の人が静かに私を見ていた。

 黒くて長い髪。

 雪のように白い肌。

 そして――

 琥珀色の瞳。


「……っ」

息が止まった。


──怖い。

それでも、体は言うことを聞かない。

男が何かを言っている。
だけど、ハッキリとは聞こえない。

それでもなぜか、

──紫黒の巫女

最後に、そう言われた気がした。