愛し紅蓮の瞳


「……まだ、夢みたい」

布団の横に置いていたスマートフォンを手に取る。
画面をつければ時刻は表示される。

けれど、そこに並ぶはずの電波マークは圏外のままだった。

「やっぱり……」

何度確認しても同じ。

電話もできない。

メッセージも送れない。

もちろん、インターネットなんて繋がらない。

「……お母さん」

口にしただけで、急に家が恋しくなった。
昨日、家を出る前に顔を会わせたはずなのに、なんだか長いこと会っていないみたいな感覚。

今日も朝から千紘は受験のことで文句を言っていたし、お母さんは朝ごはんの準備に、朝から回した大量の洗濯に追われて忙しそうにしていたっけ。

私は、学校帰りにお参りでも行ってやるか〜なんて考えながら「行ってきます」といつも通り家を出た。

そう、いつも通り。
それなのに。

「……私、帰れるのかな」

スマートフォンを胸に抱きしめる。

その瞬間──
コン、コンと襖を叩く音が聞こえた。

「はい!」

「蘭さん。起きていますか?」

「あ、はい!」

耳心地の良い、柔らかな楓さんの声。
同時に、襖が静かに開いた。