怒ったふりをしていても、やりとりが面白くてついつい吹き出すように笑ってしまった。
それでみんなもつられたように笑う。桐生くんも。
「桐生くんの笑った顔、はじめて見るかも」
「……そうか?」
「うん、あまり笑わないから」
いつも怖い顔してる。
眉間にシワを寄せて、なにをしていてもつまらなそうにしている。
「もっと笑えばいいのに」
「……それはお前もだろ」
「え?」
「お前、時々寂しそうな顔してる。それがたまに歯がゆい」
真剣な眼差しで言われるから、目がそらせない。
……そうなのだろうか。自分じゃ笑っているつもりだし、そんな寂しそうな雰囲気だしてるとも思っていなかったのだけど。
「べつに、寂しくなんてないよ」
「あっそ。そうやって強がってろよ」
「な、なんでそんな喧嘩腰なの」
「ムカつくんだよ。だから待ってろよ、俺がぜってぇお前のこと振り向かせて緑川夏希のことなんて忘れさせてやるから」
「……っ……」
なに言ってんだこの人は。
こんなに無理だよって心が叫んでいるのに、忘れられるわけない。
「無理だよ」
となりを見た。穏やかな顔をしているのが、自分でもわかるぐらいふわっとした感覚がする。
「私、夏希以上に好きになれる人なんていない」
久しぶりに名前を口にした。
思った以上にダメージを食らったのがわかる。
歯を食いしばっていないと、いますぐにでも泣きそうだ。
「……私、先に戻るね」
涙をくっとこらえながら立ち上がって教室までの道のりを行く。
後ろから「モナちゃん!」と呼ぶ水無瀬くんの声が聞こえたけど無視をした。見せられる顔じゃなかったから。



