あのとき離した手を、また繋いで。



感動している目の前の彼を見て、顔の中心に熱が集まってきていることに気づく。



「俺、死ねる……!」


「や、やめてよ……っ」


「3回目……!それ、俺を殺しにかかってるっしょ」


「そんなわけないでしょ……!」



なにバカなこと言ってんの……っ?


ああもう、絶対この人の言うことに反応しないって決めたのに。


なんでそんなことで喜ぶの。嬉しがるの。笑ってんの。……マジで理解不能。


恥ずかしくて地団駄を踏んでいると、周りから注がれている鋭い目線に気づいた。


主に、女子。



「……っ……」



居心地がいっきに悪くなって、逃げ出すように教室を出た。駆け込んだのはトイレだった。


個室に入って、あがった息を整える。


……胸が苦しい。


痛む胸にそっと手を置く。
周りの目線なんて気にしたくないのに、気にしてしまう。そんな自分もすごく嫌だ。


弱虫だ。こんなのダサい。ダサすぎる。


緑川夏希に話しかけてもらいたくないのは、これも理由のひとつだ。


やっぱり彼は自分の立場がわかっていない。人気者の自分が一匹狼の嫌われ者に話しかけたらどうなるか全然理解していないんだもの。


困っちゃうよ……ほんと……。


予鈴が鳴るのを待ってから、教室に戻った。


緑川夏希は戻ってきた私のことを真っ直ぐに見てきたけれど、話しかけてくることはなかった。


このままずっと話しかけて来ないのかなってちょっぴり寂しく思うと、ホームルームが終わった途端に「初っ端から英語だな!」なんて声をかけて来たので今度こそ無視をした。



***