朝いちから彼の爽快な挨拶を耳にすると、朝が苦手な私はすこしだけ憂鬱な気分になる。
彼のことが苦手だってこともあるんだろうけど。
というか、昨日下の名前で呼ばないでって言ったはずなのにな。
「ふふふ、俺昨日モナの声聞いちゃったもんね〜」
……だから、なんでそんなに嬉しそうなわけ?
「それだけであと3日は生きていけるわ」
温度差に気づいていないのか、緑川夏希がニヤニヤしながらとなりの席に座っている。
イライラが心の中に蓄積されていく感覚がする。
セーラー服の赤いリボンを無駄に解いて、結び直した。
紺色の制服にその赤はすごく映えるから、好き。
だけど、学校選びを私は間違えてしまったかもしれない。
こんな高校生活を送るはずじゃなかったのにな……。
友だをちつくって、ほどほどに遊んで、彼氏ができて、そんなありふれた日常にいるはずだった。
しかし想像していた私と、今の私は全然違う。
思い描いていた高校生活は送れていない。
「モナ、見て、飛行機雲だ」
暗い思考を巡らせていた私の耳に、その声が届いた。
不意に窓の外を見ると、空に絵を描くように飛行機雲が緩やかに線を引きながら飛んでいる。
穏やかな朝の空気に、張り詰めていた心がすこしだけふわっと軽くなる。
「久々見たかも、飛行機雲」
「うん……」
「……!」
妙な気配を感じて後ろに振り返ると、緑川夏希がまた大きな目を輝かせて私のことを見ていて、しまったと心から思った。
なにも考えずに返事をしてしまった。



