「へへ、怒られちった」
先生が中断していた授業を再開させた。
となりの席の彼が私のほうを見ながらそう小声で言った。
私はそれを横目で見て、前に向き直す。
「つい課題のこと忘れちゃうんだよなぁ」
「…………」
「なんでかなぁ、やらなきゃって思うほど頭から抜けるんだよなぁ」
無視し続けているのに、かってにひとりで喋り続けている。
……かと思うと急に黙り込む彼にそっととなりを見ると、右頬を机にくっつけた状態で眠っている。
寝てるし!なんなの、この人、ほんとに!
マイペースにもほどがあるでしょ!
「…………」
でも、寝顔は、綺麗だな……まつ毛長いし。
頬杖をついたまま、目をつむっている彼を凝視した。
黒い髪の毛は風にふわふわと揺られている。
左目の下にあるホクロ、薄い唇は緊張感なんてなく、すこし開いている。
きっと、周りを自分のペースに巻き込むのも、周りのペースに合わせるのも上手いのだと思う。
黙っていれば整った顔をしているのだから、もう少しスマートな紳士に見えなくもないのに。
あ……先生きた……また怒られるぞ。
「緑川!!」
「は、はい…!?」
すぐそばまで来て耳元で怒鳴った先生に対して、彼が飛び起きる。
その様子に教室中が笑い声で包まれた。
……呆れた。やっぱり、バカだ、この人。
***
窓際の一番後ろの席。それが私の席だ。
誰にも干渉されない、一番良い席だとクラス替えした当日は思っていたのに。
「モナ、おはよ!」
彼がとなりの席のお陰で、最悪の席になった。



