ニコニコしているけれど、なにを考えているのか掴めない。
そして彼も鈍くない。かんは鋭いほうだと思う。


本当は、嫌がらせは、うわばきだけじゃない。


この前体育の授業から帰ってきたらペンケースがなくなっていた。
その前はノートが切り刻まれていたり、制服がチョークの粉だらけになっていたりもした。


それでも全部どうにかして誤魔化してやり過ごした。


正直辛いし悲しいし怒りも当然湧いてくるのだけど、それでもなによりこんなことで夏希と一緒にいられなくなるほうが嫌だ。


陰湿な嫌がらせなんかに負けたくない。



「おはよ、モナ」

「……おはよ、夏希」



席についた。夏希が笑って迎えてくれた。


やっぱり、この笑顔が見られるなら、なんてことない。
大好きになった夏希の笑顔。この笑顔を曇らせたくないと強く思う。


この笑顔を守れるなら、私はいくらだって我慢できるよ。



「夏希、夏休みいっぱい遊ぼうね」

「ん、でもバイトもあるから」

「わかってる。余裕があるとき教えて」



ワガママは言わない。困らせたくないから。

夏希が大切で、大事だから、私の心の声は後回しでいい。


今嫌がらせされてるよってことも、本当はアルバイトはほどほどにして自分の体調と私との時間を大事にして、とか。


そんな自分本位なことは、家族が大切な夏希には言えない。


きっと、悩むから。


家族のために働きたい夏希。ひとりで自分たちを育ててくれている母親を少しでも楽させてあげたいという夏希らしい動機。


夏希のなかで私もきっと大切にされている。
だからワガママ言ったら夏希はどちらを優先させるかすごく悩む。