『あっ、橘さんがとなりなんだ!俺、緑川夏希!よろしくな!』
はじめて話しかけられたときのことは、今でもはっきり覚えている。
自分の立場を全然理解していないその言葉。
君のことを知らない同級生なんていないっていうのに、自己紹介してきたりして。
とびっきりの笑顔で、私に話しかけて来た。
私はそれが無性に気に食わなくて、無視をした。
嫌われればいい。正直本気でそう思った。
日向と影。太陽と月。朝と夜。
彼と私はまさにそんな比喩が似合う。
君は眩しくてたまらない。
同級生から変な噂を立てられてひとりでいる私なんかと真逆な、君。
どこにも居場所なんかなくて、ひとりぼっちの私は、どこにいても輝いている彼が疎ましくてたまらない。
彼の明るさが、私の暗さを浮き彫りにしている。そんな気がして、仕方ないのだ。
それがただの嫉妬だということは、知っている。
「緑川、まーたお前は課題忘れたのか」
「へへへ、すんませーん」
「おま、それが謝る態度か?」
「すんませーん」
怒られているのにヘラヘラしていて、先生も呆れた様子で参っている。
それを見守るクラスメイトも、クスクス笑って空気が和やかだ。
……わからない。
先生に怒られているのに、どうしてこんな雰囲気にできるの?
どうして笑っていられるの?
ほんと、生きることが楽しいって、全身から伝わってくる。
彼のような性格だと、見えている世界も違ったりするのかな。



