時刻は10時すぎだった。
「……もしもし、夏希?」
『ごめんモナ、遅くなった』
「こんなに遅くまで仕事してるの?」
『ん?ああ、まあ……ははっ』
胸が締めつけられる。
私がゆっくり過ごしていた時間ずっと夏希は働いていたのかと思うと、苦しくなる。
「明日は何時に起きるの?」
『明日は新聞配達もあるから3時かなぁ』
「起きられるの?」
『まあ大丈夫っしょ』
耳元でするスマホ越しの夏希の声。若干疲れているのか掠れて聞こえるのは気のせいなのだろうか。
本当に身体を壊さないか心配だ。
「無理しないでね」
『もう慣れっこだから大丈夫だよ。モナの声聞いてたら元気になれるし』
愛おしい。声が、君が。全部。
なんだか無性に会いたい。抱きしめてあげたい。そんな気持ちになる。
夏希がなんだか弱々しいからかな。
きっと、本当は疲れているんだろうな。
「夏希……」
『ん?』
「すき、だよ……」
声が震えた。
恥ずかしくて、頭のなか、身体のなかにある水分が沸騰しちゃうんじゃないかと錯覚するぐらい、熱くなる。
でも伝えたくなったの。おかしいかな?
『あー、もう、モナのばかっ』
「え?」
せっかく勇気出して伝えたというのに。
『会いたくなっちまったじゃねぇか……』
スマホを握る手に力がこもる。
ドキドキが、電波に乗って、君に届いちゃわないか不安になる。
「私も、会いたい」
会ったのに。つい何時間前に会ったのに。
こんなにも好きが溢れて、離れていることが辛い。



