「やっぱり、知らなかったんだ」
「うん……」
そういえば私、夏希のこと、知らないことのほうが多いかも。
だってそうだ。この前まで夏希のこと"うるさいクラスメイト"ぐらいにしか思ってなかった。
「あいつさ、母子家庭なんだよ。親父さんが小学生の頃に亡くなって、高校入った途端にバイト三昧。弟もふたりいるしな」
「そう、なんだ……」
夏希もお父さんいないんだ。
やっぱり大変、だよね。
私のお母さんも、結婚前に勤めてきた職場に運良く復帰できたけど、それが見つからなかったらと思うと、すこし怖い。
やっぱり生きていればお金はいるし。
お父さんから私の養育費はもらっているのだろうけど、夏希の場合は私とはすこし違うだろう。
胸が、痛んだ。
いつも元気で明るい彼が抱えている家庭環境。想像もつかなかった。
「俺はあいつと中学から一緒で、色々知ってる」
「うん」
「あいつは馬鹿でいつもヘラヘラしてるけど、抱え込みやすい。笑って誤魔化すクセがある。自覚はなさそうだけど……」
「うん」
頷くことしかできない。
そんな自分がすこし情けない。
「朝早くから新聞配達もしてるし、放課後はカフェで働いてる。身体壊さないか普通に心配なんだよな」
「…………」
私も今、すごく心配になった。
ほんと私って、好きなひとのこと、全然知らないんだ。
いつも笑ってて、なにか事情を抱えているそぶりを全然見せない私の好きなひと、夏希。
だからいつも夏希はあんなにも眠そうにしていて、授業中も寝ていることが多いのか。
彼の背中を思い浮かべて、触れたくなった。抱きしめたいと思った。愛しさが溢れた。
なんていうんだろう……守りたい。
私も、守られたから。



