あのとき離した手を、また繋いで。



背が高い水無瀬くんと並ぶと、自分がものすごく小さい女の子のように感じる。
隣を見ると、力ない目が真っすぐ前を見ていた。なにを考えているんだろう。



「橘さん」

「……はい」

「俺のこと、警戒してる?」



ぎくっと肩を弾ませた。正直に答えるかを少しだけ迷って、軽くうなずいた。嘘をついても一緒だし。



「はは、そっか」

「だって話したの、今日がはじめてだし……」

「あれ? そうだっけ?」



顎に手を添えて軽く唸る。そして「んー、そっか」と納得していた。なんなんだ。



「私に話しかけて来る変人は、夏希だけだよ」



そっけなく言うと水無瀬くんが、「それは、まあそうだけど」と肯定しているはずなのに、否定的な声のトーンで返して来た。



「橘さんはひとりが好きな人だと思ってた、俺」



靴に履き替えて校舎を出た。運動部の面々がグラウンドで準備運動をしているのが視界の端で見えた。



「ひとりが好きな人なんていないよ」



もしかしたらいるのかもしれない。けれど、私は違う。私は好き好んでひとりでいたわけじゃない。


身に覚えのない噂でひとりぼっちにされて諦めただけ。
だって途方もない。とんでもない数の人たちにいちいち弁解する労力もメンタルも、私にはなかった。


だから諦めた。
ひとりでいた方が楽なのだと自分で言い聞かせて、なんとか毎日をやり過ごしていただけだ。



「そうだよね。野暮なこと言ってごめん」

「ううん、大丈夫」

「でもあいつ……夏希は、ほんと橘さん一途だったよ」



体温が、上がる。
わかっている、そんなこと。
一年の頃から想われていること、昨日知った。


沈黙が訪れた。ふたりの足音と、車のエンジン音だけが鼓膜を揺らしている。



「……これからどこに行くの?」



質問をしたのは私だ。



「あいつのバイト先」

「えっ」



思いもよらなかった返答に、短く声を漏らす。

夏希、バイトしてるの?