あのとき離した手を、また繋いで。



目を見開いていると、その大きな彼女の目が私を見た。



「ふふふ、ナツの近くにいると騒がしいでしょ」

「おい、騒がしいってなんだよ」

「本当のことでしょーが」



夏希がふてくされたように唇を尖らせて、そっぽを向いて頬杖をついた。



「ふふふっ」



私はそれがなんだか面白くて、つい声を出して笑ってしまう。

夏希はやっぱり子どもっぽいなと思いながら笑っていると、私を凝視する清水さんの視線に気がついた。笑い声がひっこんだ。



「橘さんって、そんな可愛い顔で笑うんだね」

「えっ……?」



似たようなセリフをどこかで聞いたような気がした。そういえば昨日、夏希も同じようなことを言っていた気がして記憶をたどる。


――『ねぇ、モナは知ってる?』
――『自分がどれだけ可愛い顔で笑えるのか』


それは、電車の中での会話だった。自分がどんな顔で笑っているのかなんて……知らない。知っている人のほうが稀だと思う。



「もっと笑ったらいいのに〜!もったいない!」

「そう、かな……?」



でも、だけど。
とても笑える環境じゃなかったから……。


今はとなりに、笑わせてくれる大好きな人がいるけど。



「あ、やべ、俺トイレ行ってくるわ」

「行ってら~」



残りも少なくなった休み時間。慌てた様子でお手洗いに立った夏希にそう気の抜けた返事をしたのは水無瀬くんだった。


そのまま水無瀬くんが私のほうにふり向いて、怪しい笑みを投げかける。


突然、なにを言われるのか身構えていると「今日空いてる?」と予想外すぎる提案をされて、「え、今日?」と声が高く飛んだ。



「いいもの見たくない?」



不敵な笑みを浮かべた。なんだか、嫌な予感しかしない。

なにも返事できずにいると、「あいつには内緒で」と耳元で囁かれる。離れた水無瀬くんのことを見上げるとウインクをされた。それを引き気味で受け止める。



「あ、お前も来る?」



無鉄砲に水無瀬くんが清水さんに声をかけた。



「行きたいのは山々だけど、今日は用事があるんだよね」

「おお、それはよかった」

「はあ⁉ それどういう意味よ⁉」

「声かけないと拗ねるかなって思って声かけたけど、橘さんとふたりきりになれるほうが嬉しいじゃん?」

「あーそうですかー。それはよかったですねー」


華麗な棒読みに笑う。彼女のかわいらしい顔も、比例させるように無だった。さらにわき腹をくすぐられる。