あのとき離した手を、また繋いで。



しばらくして夏希が手にCDを持ったままの状態で戻って来た。



「黒木さんに渡さなかったの?」

「今日休みだって」



椅子に座りながらCDを見つめる夏希。
その眼差しがなにか思いを巡らせているように見えて心が騒つく。



「大丈夫かな、あいつ。連絡してみよ」

「…………」



おもむろにスマホを取り出して画面を慣れた手つきでタップしている。
その姿を見守ることしか出来ずにいると、一時限目が始まるチャイムが鳴った。
教室に入って来た先生が授業を始める。


シャーペンの芯を出したり引っ込めたりして、気を紛らわす。


夏希と黒木さんってどんな関係なのかな……。


ただの同級生ってよりはもっと密室な……友達?


さっき見たメッセージをしたためる夏希の目、すごく真剣だった。



「……なにか考えごと?」

「……!?」



1時限目が終わり、教科書とノートを閉じて深く息を吐いた時だった。目の前には水無瀬くんがいた。


机の前にしゃがみ、私と目線を合わせるようにして首をかしげる仕草は、狙ってやっているのだとしたら、相当な手練れだと思う。



「険しい顔してるよ、橘さん」

「ええっと……」

「悩みあるなら聞くよ?」

「や、べつに……」



水無瀬くんはあざとい爽やかさだなと思う。
つくりものっぽい。今日はじめて話して、気づいたけど。私、うまく笑えているだろうか。



「わ、橘さんがナツ意外と話してるの、初めて見るかも」



女の子の声が飛んで来た。驚いて肩を揺らす。


顔を上げると、お団子ヘアーが特徴的な女の子が歩み寄って来ていたところだった。
名前は確か清水梨里杏(しみずりりあ)だったはず。