いきなりなにを言い出しているんだ、この人。
少しの間切れ長の目をしばたかせて、水無瀬くんが「だから、わかってるよ」と軽くはにかんだ。
ふたり、よく一緒にいるところを見かける。たぶん仲が良いのだろう。それが彼らのつくりだす雰囲気からも伝わってくる。
「まあ、末長くお幸せに?」
「るせー」
「橘さん、こいつうるさいけど、よろしく頼むわ」
爽やかスマイルを浮かべた夏希の友だち。
私が軽く頷くと、水無瀬くんは先に教室へ入って行った。
夏希を見る。目が合って、微笑まれた。
予鈴が鳴る。私と夏希も教室の中に行き、先に座った。
なんだろうな、この感じ。
昨日までとはまるで違う。ふわふわとした、心の浮ついたような感覚。
そういえば、夏希以外のクラスメイトと初めてまともな会話したかもしれない。
不意に昨日夏希が言っていたことを思い出す。
『他にもきっといるよ、そういうやつ』
そう、なのかな。他にもいるのかな。私のこと、噂のフィルター越しじゃなくて、ちゃんと目で見て判断してくれる人……。
そうこうしているうちに朝のホームルームが終わった。騒がしくなる教室内。一限目の授業の準備をしていると、視界の端で隣の席の夏希が立ち上がったのが見えた。
なんのアーティストかはわからないけれど、手でCDを持っている。
「ちょっと隣のクラス行って来るわ」
「う、うん。行ってらっしゃい」
なんでもないように笑って報告してくれた彼に、私は顔を引きつらせないように口角をあげた。
夏希の背中を見送ったあと左側にある窓の外に目線を投げる。
黒木さんのところに向かったのだろう。
昨日、CDを貸すとかなんとかの会話をしていた気がする。



