「夏希はさ……」


「ん?」


「私が本当にエンコーしてるとは考えたことないの?」



だって学校中の人がみんな私のことをそんな風に思っている。そんな中、今年はじめて同じクラスになって、たまたまとなりの席になっただけなのに、どうして疑わずに信じてくれるの?


この前だって、私がいないところで女子の噂話を一蹴りにしていたし。



「だって俺、モナが実際おっさんといるところ見たことないし」


「え?」


「自分の目で見たものしか信じたくねぇーんだよな。だから俺は最初からモナの噂なんて信じてねぇし。初めてモナのことを見かけたときの優しい女の子の印象しかない」



ぐっとのどが痛む。


私がずっと欲しかった言葉はまさにそれだった。
噂とか、他人の言葉越しに私を見てほしくなかった。
本当の私を、真っ直ぐに見てほしかったの。


しかもそれがさぞ当たり前のように、まるで何事もないように言ってのけた彼に、胸がじんと熱くなる。



「他にもきっといるよ、そういうやつ」


「え?」



他にも……?


目を見開かせていると彼がクスリと笑って「ねぇモナは知ってる?」と話を続けた。



「自分がどれだけ可愛い顔で笑えるのか」


「は、なに言って……っ」


「ほら」



人差し指でびしっと私の眉間を指した夏希におし黙る。



「その顔だよ。可愛い顔が台無し」



目を丸くして、まばたきを大きく繰り返す。

イラッとして更に眉間にシワを寄せそうになったのだが、言われた言葉を気にして頑張って真顔をつくる。

あらゆる表情の筋肉がピクピクしている気がする。


……台無しって、ひどくないか?



「もっと笑おうぜ?」


「…………」


「まあ笑えなくても、俺が笑わせるだけだけど」