あのとき離した手を、また繋いで。



目を見開かせて驚いている。



「モナ……?」

「うっさい。……無駄に話しかけないで」

「もう無視しないの?」

「……あんた次第」

「イエッサー!」



手のひらを額に掲げて敬礼する夏希。
声の音量を調節するネジが壊れているのか、とてもうるさくて、教室に入ってきた次の授業の先生が「うるさいぞー」と彼を叱った。


それでもヘラヘラしている彼に先生は呆れている。


……やめてほしい。
ニヤニヤするの、こっちが恥ずかしい。


そんな悶々とした気持ちを抱えたまま、教科書とノートを広げた。


小さく鼻歌を奏でる夏希が恨めしかった。


その日の放課後。
淀んでいた空はとうとう雨を降らした。


昼休みの時間にも怪しいなと思ってはいたが、ここまで土砂降りだと帰るのがさすがにしんどい。しかも傘忘れたし。ほんと最悪。


昇降口前で暗い空を見上げてため息を吐く。傘を広げて帰っていく生徒たちが心底羨ましい。


お母さんは仕事中だからお迎えには来れないしなぁ……。


濡れて帰る覚悟をするしかない、そう思ってかばんを頭の上に持って足を一歩前に踏み出したときだった。



「あの」



小鳥のさえずりのように可愛い声が、私を呼び止めた。
自分にかけられた声か迷ったけれど、振り向くとそこには女の子がひとり、立っていた。


真っ黒な髪の毛は肩につくかつかないかぐらいの長さのボブ。
丸く大きな目と、小さなくちびる。
こんなこと思うのは失礼かもしれないが、中学生に見えなくもない。


だけど赤色のリボンを使っているから同じ学年の子、だよね?



「橘モナさんですよね……?」

「そう、だけど……」



突然のことで同様しながら返事をすると、口元を緩ませた彼女が「よかったらこれ、使ってください」と傘を私に差し出した。