はっとして、顔をあげる。
彼の、緑川夏希の発言に驚きを隠せない。
なに、言って……?
「じゃあ質問。お前ら実際にあいつがおじさんと会ってるところ、見たのか?」
「いや、それは……」
「だろ?誰が流してるか知らねえけど、俺は自分が見たものしか信じねえから」
まだ見るのが怖くて中の様子は伺えないのだけど、わかる。今緑川夏希は間違いなく笑っている。清々しいほどのドヤ顔で。
なぜかはわからない。一瞬で悲しみの涙が引いた。心臓が激しく揺さぶられる感覚がする。
痛いほどに強く、心の奥底にある冷めたはずの熱がふつふつと沸いてくる。
そのとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
私は一度大きく息を吐き、まだ通常運転に戻らない心臓を手で叩いてから、教室に戻るクラスメイトの波に紛れるようにして自分の席まで小走りした。
となりの席には当たり前にあいつがいる。
「どこ行ってたの?」
「……っ……」
彼の明るい声が私の鼓膜を揺らした。
ただそれだけなのに、胸がつまる。
本当はいつもみたいに無視しようと思った。
けれど先ほど私のいないところで、私のことをかばってくれたし、私が気にしている噂のこと、くだらないって一蹴してくれた。
それがたまらなく嬉しかったから……。
「……屋上」
たった一言だけど、初めて自分の意思で返事をした。
小っ恥ずかしくてとなりが見れない。
絶対あの顔してる。
だけど気になって横目で彼を見ると、やっぱり予想は的中。



