あのとき離した手を、また繋いで。



きっとそんなもんだと思う。
みんな優しい顔して笑っているけれど、心の中はドライ。


目に見えない感情なんか信じられない。


友情も、恋も、愛も……。


両親だって恋をして、愛しあって結婚したはずなのに。
毎日毎日喧嘩ばかりしていて、とうとう離婚が決まった。もう1年半も前の話だけど。


いがみ合い、傷つけ合う姿を何度も見て聞いた。


あんな風になるなら、私は恋もしたくないってすごく思う。



「…………」



……なんで今、あの人の顔が浮かんだのだろう。


不意に思い出されたのは緑川夏希の笑った顔、私を呼ぶ声だった。


だけど緑川夏希だって、きっとそうだ。


なんの曇りもない笑顔でいつも私に声をかけてくれるけれど、心の中はわからない。


変な噂を立てられてひとりぼっちでいる私のことを、心の中では嘲笑っているのかもしれない。


からかっているつもりで話しかけてきているのかもしれない。


そう思うと、すこしだけ怖い。


くちびるを甘噛みして、目を伏せた。自然の音と頬を軽くなでる風だけに意識を集中させて、邪念を打ち消す。


他人の心の中を想像して悲しい気持ちになるぐらいなら、ひとりぼっちのほうがいいのかもしれないね。


友だちができないことを悲観していたけれど、むしろ好都合なのかもしれない。


ひとりぼっちの世界なら、他人とのいざこざもない。



「戻らなきゃ……」



ポケットにしまっていたスマホで時間を確認した。昼休みが終わる10分前。


最後に一度大きなため息を吐いてからその場を去った。