店内のBGMが新しい曲になった。流暢にシャーペンを滑らせていきながら「あのさ」と清水さんに話を切り出す。



「私と桐生くん、本気で付き合えばいいって思ってる?」



声のトーンが若干低くなったことを後悔した。もっとフランクに聞くつもりだったのに、自分が思っていたよりも真剣に聞いてしまった。


清水さんの書く手が止まる。
背もたれに体重を預けて「んー」と唇を尖らせてから彼女は口を開いた。



「モナちゃんが選んだ人なら誰だって応援するよ。幸せならそれでいい。まあ、相当なダメンズなら私も反対するけど、桐生くんはなんというか……不器用なだけで、モナちゃんのこと心から好きだと思うからさ」


「うん」


「いいんじゃない?付き合っても」



待っててと言ってから1ヶ月半が経った。


あれから桐生くんは私に優しくしてくれるようになった。
口は悪いけど、それはさっき清水さんも言っていたように不器用なだけなのだともうわかっている。


朝は校門前で登校してくる私のことを待っていてくれたり、昼は水無瀬くんと清水さんと一緒に食べるようにもなったし、放課後は一緒に帰ったり、たまに寄り道したりもしている。


大学も、私たちと同じところを受けると話していた。


細身だけど背が高く、金髪の彼は目つきが悪く、態度も口ぶりも悪いけど、たぶん誰よりも一途だ。


きっと彼のことを好きになれたら、私、幸せになれるって、そんな予感しかしない。



「桐生くんのこと、好きになりたいなぁ……」



ぽつり、呟くと清水さんが小さく笑いながら「うん」と頷いてくれた。
目があって、どちらからともなく吹き出して大笑いする。


そのあとは勉強に集中した。