意地悪するように言うと清水さんは顔を真っ赤にさせた。
最近ふたりはいい感じ、だと思う。


私がこの1年どれだけ水無瀬くんに清水さんには優しくしなさいと言ってきたかわからない。
それがすこしだけ実を結びつつあるのだ。



「で、でもあいつが優しいとか、なにか企んでたりしない……?」

「しないでしょ。水無瀬くん意外とストレートで裏表ない人じゃん」



嘘だ。いま私はデタラメを言っている。彼は間違いなく誰よりも策士で、人の心に敏感だ。清水さんに対しては例外みたいだが。


でもたぶんそれは清水さんも同じで、なぜだかふたりはお互いにお互いのことに関してだけ鈍感なのだ。


たまにそれがもどかしく、歯がゆい。
ぶっちゃけてしまいたくなる。



「そういえばモナちゃんも進学希望にしたんでしょ?」

「うん。母子家庭だから奨学金でね」

「じゃあ同じ大学行けるように頑張ろうね」

「うん、水無瀬くんも同じ大学でしょ?」

「そうみたい」



ふと"夏希はどうするんだろう"という疑問が湧いた。
就職するんだろうか?
それとも私と同じように奨学金で進学するのかな……。


彼女でもないし、もう友だちですらないのに考えたって一緒なのだろうけど。


清水さんに聞く勇気は毛頭ない。


そしてこれも私には関係のないことだけど、最近また黒木さんが学校を休みがちだということを風の噂で聞いた。


ーーブブッ。


スマホのバイブレーションの音。
桐生からのメッセージを受信していた。



【帰るとき連絡して。迎えにいく】



内容を見た。放課後は清水さんと勉強することを話したからこの内容だろうか。



【いいよ、べつに】

【俺がお前と一緒にいたいんだよ。いいから帰るとき連絡しろよ】



返ってきた返信に頭を抱えた。
なんでこんなキザな言葉をこの人は平気で送ってくるんだろう。



「桐生くん?」

「うん、迎えに来てくれるって」

「優しいじゃん」

「わざわざ申し訳ないよ」

「向こうから申し出てるんだから、素直に甘えときなって」



他人事だからそう簡単に言えるんだよ、まったく。
さっきまでの赤面顔はどこいったのやら。