強く握られたままの手。



「……誰が俺のものだって?」

「お前だよ」

「冗談はもうやめてよ」

「本気だから」



手を振り解こうとしたのだけど、より一層強く握られて離れられなかった。その刹那、背中の壁に反対側の桐生の手がつく。壁と目の前の桐生のせいで身動きがとれなくなる。


とても距離が近い。桐生くんから甘ったるい匂いがする。目をそらせない。吐く息にも気を使う。だからかまともに呼吸ができない。



「泣くぐらいなら、俺にしろよ。あいつのことなんか忘れろ」

「……簡単に言わないで」

「お前捨ててほかの女のとこ行く男のなにがいいんだよ」

「……あんたにはわかんない」

「あんなに幸せそうに笑ってたお前どこいった?」

「は?なに言って……ーー」



「あーもう、うるせぇ口だなぁ」



低い声に心臓が跳ね上がる。その一瞬の隙をついて彼が私の後頭部に手をまわした。そしてそのまま私の口をまるで塞ぐかのようにキスをした。


逃げられなかった。


遠くでは生徒たちが昼休みをはしゃいで過ごしている笑い声が聞こえ、すぐそこでは歩く足音や話し声までする。


時間ははっきりと同じ早さで進んでいるのに、私たちの間だけ時間が止まったように動けない。


柔らかい自分のものではない温度。



「目ぇ閉じんな。俺を見ろ」

「やだ、離して……っ」

「あいつじゃなくて、俺を、見ろ」

「や、だ……っ」



再びキスをされる。
ありえないぐらい強引で、なのに、特別に甘い。


頭の中が真っ白になっていく。なにも考えられない。



「いいから、なにも考えずに、頭んなか、俺でいっぱいにしろよ」



ぎゅっと抱きしめられて、掠れた声で切なそうに言われる。
抱き寄せる腕の強さは私をけして離さない。