山本くんの背中を見送ったあと、中谷さんに寄って尋ねてみた。



「さっき、山本さんに何を言われたんですか?」



すると、少し慌て出す。



「く、くだらないことは、いいんです!仕事しましょう」

「はーい」



カップルの会話の内容を聞き出すなんて、確かに野暮だった。

中谷さんの後に続いて、事務所に入ろうとすると、突然に中谷さんが扉の前で振り返った。

思いの外、距離が近く、俺はのけ反る。



「辻さん」

「はいっ」

「さっきは、いろいろと疑ってしまって、すみませんでした」



謝ったかと思うと、唯でさえ近い距離なのに、この距離で下から指をさしてくる。

更に、俺はのけ反る。



「でも、次に水野さんを泣かせたら、許しませんから、絶対に」

「き、気を付けます」

「お願いしますよ。さっきの辻さんの表情を見たら、よくよく分かりましたから」

「え」

「早く水野さんのこと、安心させてあげてください」



そういうと、中谷さんは先に事務所の中へと入っていった。